名古屋高等裁判所 昭和26年(う)724号 判決
一件記録に徴するに起訴状公訴事実に所説のように、被告人は昭和二十五年十一月十六日頃碧南市棚尾町字田ノ崎五十二番地竹田喜市郎方に於て拾日以内に代金を支払ふ契約の許に同人よりガラ紡毛布七百二枚及ガラ紡反物百参拾反を代金貳拾万三千五百八拾円の契約で購入し該品を新潟市新発田市一ノ関市内の市場で同年十二月十日迄に約十五万円に売却し其の代金を受領したるも竹田喜市郎に支払ふ事なく其の頃擅に自己の用途に着服横領したものであるとの事実を記載し之をもつて横領罪の成立するものなりとしていることが明らかであり、又所説のように刑事訴訟法第二百五十六条の規定によれば起訴状に記載する公訴事実は罪となるべき事実を特定しなければならなく又刑事訴訟法第三百三十九条第一項第一号の規定によれば起訴状に記載せられた事実が真実であつても罪となるべき事実を包含していないときは決定で公訴を棄却しなければならないことが明らかである。
而して所説は右起訴状記載の公訴事実は横領罪を構成しないことが明らかであるから右説示の理由によつて本件公訴は棄却せられなければならないのに原審においてその挙に出づることなく右公訴を受理し、且つその公訴事実の変更を認めたのは不法である旨主張しているところ右起訴状における公訴事実の記載によれば右金員が果して竹田喜市郎の所有にかかるや否やは右公訴事実の記載のみによつては明らかではないので所説のような紛淆を生じたものと思料せられるのであるが元来売買契約の中には民法所定の典型的売買もありその形式を借りながら他の意義をも之に包摂せしめた所謂信託的売買もあり、後者の中にも該取引物件の所有権が全面的に買主に移転するものと然らざるものとのあることも明らかであるので本件における被告人と竹田喜市郎との間の売買の意義如何によつてはその転売代金の所有権の帰属を異にし従つて右公訴事実は或は犯罪を構或し或は犯罪を構成しないものと解せられる次第であつて未だ必ずしも所説のように全く犯罪を構成しないものとは遽に断じ去ることはできなく従つて本件公訴の提起が全く無効のものと認めがたく、右起訴状における公訴事実の記載の不明確な点は単に之を修正して明らかならしむれば足るものと解せられ従つて記録上明らかなように原審検察官が原審第一回公判期日において被告人は昭和二十五年十一月十六日頃碧南市棚尾町字中久根五十一番地竹田喜市郎方工場に於て同人よりガラ紡毛布七百二枚及ガラ紡反物百三十反を代金二十万三千五百八十円の契約で販売の委託を受け同年十二月上旬頃之を代金約十五万円で新潟市内等で売却し其の代金を同人の為め保管中同月十七日頃岡崎市内等に於て擅に自己の用途に着服し以て横領したものであるとの公訴事実の一部変更請求書を起訴状と共に朗読してその公訴事実を変更(訴因の変更にあらずして単なる修正の意味に解する)して之を明確ならしめたのは正当であるものと認められ且つ右修正せられた公訴事実は犯罪構成要件を具えていることが明らかであるので本件公訴の提起は有効なものと認められる次第であつて原審が所説のように不法に公訴を受理した廉は認められないので論旨は之を採用しない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)